この記事のポイント
「基準年度」の定義の根本的な変更と「足下の賃上げ」の連動
補助事業実施期間の1か月短縮
申請時における提出書類の一部簡素化
加点・減点項目の変更
はじめに
中小企業省力化投資補助金(一般型)は、人手不足に悩む中小企業等が、IoTやロボットなどのデジタル技術を活用したオーダーメイド設備を導入する際の費用の一部を支援する制度です。
2026年8月、本補助金の第8回公募要領が公開されました。
前回(第7回、2026年6月公募開始)からわずか2か月での改定となりますが、内容を細かく見ていくと、文言の修正だけでなく、実務上の判断に直結する変更がいくつか含まれています。
本コラムでは、第8回公募要領と第7回公募要領を比較し、申請を検討している事業者が押さえておくべき変更点を整理してご紹介します。
「基準年度」の定義変更
今回の改定で実務的なインパクトが大きいのが、「基準年度」の定義変更です。
第7回公募までは、労働生産性や1人当たり給与支給総額の伸び率を計算する際の基準(起点)は「応募申請時の直近決算期」とされていました。
つまり、申請する時点で確定している決算期の数値をベースに、事業計画期間終了時点までの成長率を算出する仕組みです。
これに対し第8回公募からは、基準年度が「補助事業が完了した日を含む事業年度の決算期」に変更されています。
設備投資が完了し、実際に稼働を始めた事業年度の決算数値が新たな出発点となるわけです。
基準となる数値が確定するタイミングが後ろ倒しになる点は、資金計画や賃上げ計画の検討においても意識しておきたいところです。
「足下の賃上げ」の評価導入
第8回公募要領の「書面審査(計画面)」において、注意すべき追加要素が、「足下の賃上げ」に対する評価の導入です。
これまでは、主に「補助事業完了後」の事業計画期間(3~5年)における賃上げ率(年平均3.5%以上)が要件および評価の対象でした。
しかし、第8回からは設備の導入といった補助事業の完了を待たずして実施する「足下の賃上げ」もあわせて評価される仕組みに変更されています。
具体的には、応募申請時の直近決算期から基準年度までの期間の従業員1人当たり給与支給総額が「物価上昇率を上回る程度」に増える計画でない場合、審査上大幅に不利になります。
さらに、採択された場合は交付決定までに、この賃上げ計画を従業員へ表明することが必須要件となります。
ただし、注意が必要なのが、基準となる「物価上昇率」が具体的に何を指すのか(どの統計の、何%の数値を基準とするのか)といった明確な定義が、現時点の公募要領には明記されていないという点です。
今後公開される応募申請の手引きなどで具体的な定義を必ず確認し、目標数値を設計する必要があります。
補助事業実施期間の短縮
事業実施のスケジュールにも変更がありました。
・第7回:交付決定日から18か月以内(採択発表日から20か月以内)
・第8回:交付決定日から17か月以内(採択発表日から19ヶ月以内)
いずれも1か月短縮されています。
設備の発注から納品、検収、支払い、実績報告までを完了させる期間がタイトになるため、システム構築を伴う案件など、リードタイムの長い投資を計画している事業者は、これまで以上にスケジュール管理に注意が必要です。
提出書類の一部簡素化
基準年度の定義変更とも関連しますが、提出書類にも変化が見られます。
第7回では、全事業者共通の応募時提出書類として「【指定様式】1人当たり給与支給総額の確認書」が明記されていましたが、第8回の提出書類一覧(4-4)ではこの書類が挙げられていません。
また、交付申請時の必要書類からも「全従業員分の賃金台帳(応募申請の直近決算期分)」の記載がなくなりました。
これは基準年度が事業完了後の決算期に変わったことで、応募・交付申請の段階では確定できない数値が増えたためと考えられます。
ただし、基準年度の1人当たり給与支給総額の算出には引き続き当該確認書を用いる旨が定義部分に記載されているため、効果報告等の段階では改めて必要になる可能性があります。
今後公開される応募申請の手引きや電子申請マニュアルも合わせて確認することをおすすめします。
加点・減点項目の見直し
加点項目のうち「事業場内最低賃金引き上げに係る加点」は、引き上げ額の基準が変更されています。
・第7回:2025年7月と応募申請直近月を比較し、63円以上の賃上げ
・第8回:2026年6月と応募申請直近月を比較し、55円以上の賃上げ
公募回ごとに直近の最低賃金改定の動向を踏まえて基準がアップデートされる項目であるため、申請のたびに最新の数値を確認する必要があります。
また、減点項目である「加点項目要件未達事業者」の対象となる中小企業庁所管の補助金リストに、第8回から新たに「中小企業デジタル化・AI導入支援事業(デジタル化・AI導入補助金)」が追加されました。
複数の補助金を併用・連続して活用している事業者は、この点にも留意しておく必要があります。
まとめ
第8回公募要領における大きな変更点の一つが、労働生産性や賃上げ率の算出基準となる「基準年度」が「補助事業完了後の決算期」へ後ろ倒しされたことです。
この変更は単なる計算式の変更にとどまらず、新設された審査項目「足下の賃上げ(申請直近決算から基準年度までの物価上昇率を上回る賃上げ計画)」の導入と深く結びついています。
また、応募・交付申請時に賃金関連の提出書類が一部簡素化されましたが、これは基準年度が未来になったことで申請段階では確定できないためであり、設備導入後の「効果報告」フェーズでは引き続き「賃金台帳」や「確認書」による検証が行われます。
表面的な「書類の減少」だけで判断せず、申請直後から始まる賃上げシミュレーションを綿密に行うことが採択率向上と事後の返還リスク回避につながります。
申請にあたっては、必ず最新の公募要領や応募申請の手引きなどを確認したうえで、事業計画の策定を進めることをおすすめします。
省力化投資補助金の活用を検討されている事業者の方は、ぜひ一度、認定支援機関にご相談ください。